皆さま、こんにちわ!Engineer Travellerです。
Engineer Travellerは鉄道系の設計をしている関係もあり、鉄道事故と聞いてしまうとかなり気になってしまいます。 そんな中で、京浜急行で大きな踏切事故が発生してしまいました。
まずは、今回の事故でけがに遭われた方、心よりお見舞い申し上げます。加えて、トラックドライバーのご冥福をお祈りいたします。
今回の記事は原因を技術的に検証するのが目的であり、京浜急行や運送会社の責任を検証する問題ではありませんので、ご注意ください。
京浜急行踏切事故の概要
事故概要
詳細は記事を読んでいただければと思いますが
・京浜急行 神奈川新町駅近くの踏切に13トントラックが立ち往生してしまった
・そこに最高速度120km/hで走行している快速急行が進入・衝突した。
・踏切の非常ボタンは押されたが、快速急行はブレーキをかけたが間に合わなかった
事故の発端はトラックにあるようですが、報道を見る限りは踏切が閉まってからトラックが進入したわけでなく、立ち往生したところに踏切が閉まったようですので、衝突するまでには結構時間があったと推定できます。
衝突した京急1000形の仕様
衝突した車両は京急1000形という比較的に新しい車両で、事故を起こしたのは1137編成。Wikipediaによると2010年6月に落成した車両で、約9年走行してきたようです。
その他、車重と性能は次のようになってました。
空車重量 | 241.5トン | |
起動加速度 | 3.5km/h/sec | (0.972m/s2) |
常用最大減速度 | 4.0km/h/sec | (1.111m/s2) |
非常減速度 | 4.5km/h/sec | (1.250m/s2) |
非常減速度というのは、運転手が危険を察知して非常ブレーキをかけた時の減速度で、車内には結構衝撃が来るので、普段は使わないブレーキ人なります。
信号機の設置状況
通常、赤・青・黄などの複数色の信号が鉄道にもあります。ですが、それとは別に踏切の異常を知らせる警報装置も設置されています。
こちらも報道によると、踏切の手前10m、130m、340mの三か所に設置されているとのこと。位置関係を示すとこんなところに設定されているようです。
鉄道車両に必要な性能
600m以内に車両は止まれるように設計している
国土交通省の鉄道に関する技術基準として、
在来線の車両は600m以内に止まれることを標準とする。
とされています。これは、大体人の目で異常を視認できるのが600m前後であることが一つの基準になったようですが、最近は目が悪い人もいますしカーブもありますので、信号機などを使って600m以内に非常ブレーキをかけられるようにしているようです。
なので、ニュースでも600m以内に視認できさえすれば、トラックに衝突せず止まれるはずと鉄道の評論家が言っているわけです。
実際に1000形では何mで止まれるか?
高校の物理で習う基本公式に
というものがあります、速度V0から速度Vに変化したときの、加速度αと走行距離lの関係式になります。
この式を使って、京急線の最高速度120km/hから止まるのにどのくらいの距離が必要なのか計算をしてみましょう。
上の式に
V:停止時の速度 : 0m/s (0km/h)
V0:最初の速度:33.33m/s (120km/h)
α: -1.25m/s2 (4.5km/h/sec) ※減速度なので加速度はマイナスで表します。
※m/sを使うのは単位系を合わせるためです。
を入れていくと、止まるまでの走行距離Lが出てきます。
計算結果は
L=444m
よって、600m以下なので、問題なく止まれます。 報道で120km/hを出すのが・・・・というのもあるみたいですが、技術基準を守っているので120km/h運転にはなんら問題ないことが分かります。
どのような状況で衝突したのか?
最初先頭車両の衝撃具合を見たら、かなりの速度で衝突したことが分かります。実際は120km/h近くの可能性もありますが、少なくとも何キロで衝突したか検討してみました。
衝突から停止までの距離は?
衝突時の速度を推定する前に、どのくらいの距離を衝突してから進んだのか確認してみました。
この動画を見ていくと、1分30秒近辺に空撮映像があって、踏切から先頭まで4両分の長さがあることが分かります。
2000形が1両18mなので、衝突から停止まで約72mになることが分かります。ここから衝突時の速度が推定できないか考えてみました。
衝突直後の速度を推定してみる
先ほどと同じく、
この式から、衝突直後の速度を推定していきましょう。
ここでαをいくつにするかが問題ですが、確実に出ているのは非常減速度の-1.25m/s2になります。衝突後はトラックを引きずったり脱線したのでこれ以上の減速度が出ていることは確実ですが、仮定では-1.25m/s2で検討してみましょう。
V: 停止状態 0m/s
α: 非常減速度 -1.25m/s2
l : 72m
を入れて計算してみれば、衝突直後の速度がわかります。
計算してみると。。。。
V0 = 13.4m/s (=48km/h) になります。
衝突直前の速度を推定してみる
さっき求めた速度はトラックと衝突直後の速度なので、衝突によって電車が減速した分が含まれていません。
そこは………
物理の基本公式、運動量保存則という式から導き出せます。
M:は電車の重量 空車で241.5トンですが、実際は乗客もいるので
250~260トンでしょうか?ここでは250トンに仮定しましょう。
m:はトラックの質量。13トン車なので荷重は最大13トン。自重は2~3トンは
あるでしょうから、16トンとしましょう。
衝突時のトラックの速度は0km/h、衝突直後は48km/hですので、
衝突直前の電車の速度は51km/h (以上)
と推定できます。以上としたのは、仮定の減速度が低すぎるからです。減速度が倍出てれば、衝突直前の速度は1.4倍にもなります。あの状況を見たら、もっと速度が出ているような感じがしますが憶測になりますので、考えないようにしましょう。
事故の原因は?
事故の原因はトラックが踏切に立ち往生したことではありますが、普通の状態であれば事故にならずに終わっていたはずです。
今後詳細に検証されることになるとは思いますが、これらの計算結果を見る限りは120km/hの高速運転をすることは問題なく、信号が正常に作動していれば停車できたはずです。
すると考えられる原因は
- 非常信号機が壊れていて、600m手前で異常を確認できなかった。
- 運転士がブレーキをかけるタイミングが遅かった
- 車両のブレーキに異常があった
- トラックが踏切に進入したのが、遮断機の下りた後だった
などが考えられますが、これ以上は自分ではわかりません。今後の原因調査を待ちましょう。
まとめ
鉄道はあらゆる事態を想定して、安全装置をかけているはずですので、今回の事故で見直すべきことがあれば積極的に見直して、今後の安全輸送に努めてほしいです。
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