こんばんわ!Engineer Travellerです。
家のWimax回線が急遽トラブルで停止してしまい、200kbpsのテザリングしかなくなり、全然更新できませんでした。
やっとWimaxが復旧したので更新を再開していきたいと思います。マイルネタもだいぶたまってきていますが、ANAのプレスリリースでの面白そうなネタがあったので、エンジニア視点で検討してみたいと思います。
航空機のけん引を検証してみる
リモコン操作で航空機けん引を実用化
さて、今回注目したのは……
という、ANAのプレスリリースです。九州の佐賀国際空港でいろいろなトライアルを実施しているようですが、その一つにリモコン操作による航空機けん引を営業運用でも使用することになったとのことです。
ANAのHPから写真を借用させていただきますが、、、
ANAのプレスリリースより引用
これまで使用しているけん引車とリモコン式のけん引車を比べると一目瞭然。大きく小型化されていることが分かります。通常のけん引車はエンジン駆動に対してリモコン式のけん引車はバッテリー駆動による電動ですので、地球環境にもやさしくなっています。
実際に調べてみると、車重などはこんなに違いました。
メーカー | コマツ製トラクター | Spacer | |
WT500E | WT250E | 8600 | |
重量 | 50ton | 25ton(たぶん) | 5.4ton |
比較の写真に出ているのが、WT250Eというトーイングトラクターだと思うのですが、今回実用化に使用した重量は25トン。
一方今回実用化したリモコン式けん引車 Spacer 8600はわずか5.4トン。
当然導入コストなどははるかに少ないことが予想できます。
<参考サイト>
トゥイングトラクター | はこぶ | けんせつきかいだいずかん(建設機械大図鑑) | はたらくくるま・けんせつきかいのウェブサイト「ケンケンキッキ」
航空機のけん引の目的は?
さて、そもそもなぜ飛行機のけん引が必要なのでしょうか? 通常けん引やプッシュバックが必要な場合は
-
ターミナルから滑走路に向けて飛行機の向きを変える
- 機体を格納庫から出してターミナルに据え付ける場合
くらいかと思います。格納庫から出して据え付ける場合は結構な距離をけん引しますが、ターミナルから滑走路に向けて飛行機の向きを変える場合は、ほんの数十メートル~百メートルくらいでしょうから、そんなに走りません。
こういう時にいちいち大きい車両を使わずにリモコン式でけん引・プッシュバックできれば最高ですね。ですが、リモコン式にするとデメリットも出てきてしまいます。その辺りを詳しく検証していきましょう。
意外に難しい航空機のけん引
小型化するとけん引できない!?
小型化するとモーターが小さくなるからけん引できないのではないです。
高校時代の物理の知識を使うと、質量Mのものを加速度αで引っ張るために引っ張る力は
F=Mα
で求められます。このFをけん引車が出せればいいわけです。
ターミナルから出るときにはそんなに速度はいらないので、ギアという減速装置を使って回転数を落としてあげれば、この力Fを大きくすることができ、飛行機とともに加速して引っ張ったり押したりできるようになるわけです。
けど、このFを大きくすると問題が発生してしまいます。それは・・・
粘着
という問題です。
小型化で起きる粘着問題とは!?
さて、粘着問題とはどういうことなのでしょうか??
下に、けん引車のイメージを作ってみました。 いま、Fという力をある車輪で出そうとしています。
この時のFとMの比率を粘着と言って、路面の状況や車輪の素材によって許容できる粘着が変わってきます。
例えば、鉄道のような金属同士の場合は18~20%前後が許容粘着。 ゴムタイヤと舗装路面であれば、雨天時だと60%前後が許容粘着のようです。
簡単に言ってしまうと、軽自動車に無理くりスポーツカーのエンジンを入れてもタイヤが空回りしてしまうような感じです。
では、実際にどのくらいの粘着になるのか検討してみましょう。
まずは、飛行機の質量ですが……Wikipediaによれば、小型機の最大離陸重量はこんな感じになっています。
最大重量であるA321の93.5トンと8600の5.4トン、合計98.9トンで考えていきましょう。 Spacer 8600の仕様書を見ると加速度は載っていませんが、10秒ほどで最高速度に達すると仮定すると……
加速度αは0.15m/s2になりますので、
F=98.9[ton] x 0.15 [m/s2] = 14.84 [kN]
の力が必要です。この力をSpacer 8600の5.4トンのうち後方の半分がかかるタイヤで出そうとしますので、粘着は
μ = 14.84 [kN] / ( 2.7[ton] x 9.8[m/s2]) = 56%
※9.8はtonをkNに変換する係数です。
雨天時だと限度60%ですので、ぎりぎりです。
加えて、雨天時ではなく、降雪時は許容限度はもっと小さくなりますので、タイヤが空回りする可能性が否定できません。
こういう時は、けん引車側に重り(鉄板など)を積んで無理くり粘着を小さくするのですが、せっかく小型化したのに重りを積んで大きく・重くするのは本末転倒です。
意外な方法で粘着問題を克服!
そこで、このSpacer 8600では意外過ぎる方法で粘着を小さくする工夫をしています。その辺りは、交通系サイトの記事に回答がありました。
このページの写真をみて分かりますが実はこのリモコン式けん引車、飛行機の前輪を抱え込んで引っ張ったり押したりしています。 通常は”けん引棒”を使うのですが、この方法ですとけん引棒の強度を考えなくていい!!という メリットがあります。
実はそれ以外にもメリットがあって
飛行機の荷重をリモコン式けん引車のタイヤに加える
重りを載せるのと同じ効果を発揮することが可能になります。
実際に計算してみましょう!
今回、飛行機の前輪にかかる重量を10トン、そのうち半分の5トンが片方の車輪にかかると仮定すると
μ = 14.84 [kN] / ( (2.7 + 5.0 ) [ton] x 9.8[m/s2]) = 20%
粘着は20%まで低下。ここまで行けば、降雪していても滑らないことが分かります。
実際は駆動軸にかかる重量を極力大きくなるように設計するので、実際はもっと粘着は小さくなっているはずです。
実際のけん引の様子がありましたので、ちょっと見てみてください
航空機けん引で実証実験 全日空、遠隔操作で効率化
まとめ
実は小型化によるデメリットをカバーするために、飛行機の重量を使うという意外な方法で解決しています。エンジニア的にはうまく設計したなあ~と感心しています。
佐賀国際空港に行く機会がありましたら、ぜひともこんなことを気にしてみてください。
また、このSpacerの機種には195という最大けん引重量195トンの機種もあるようです。この場合は、ボーイング767もけん引できるようですが、さすがに777やA380はまだけん引できないようですね。
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